音楽業界4団体による
今井絵理子氏と生稲晃子氏の支持表明への抗議
第26回参議院議員通常選挙2022
音楽業界4団体による
今井絵理子氏と生稲晃子氏の支持表明への抗議
日本音楽事業者協会、日本音楽制作者連盟、コンサートプロモーターズ協会、日本音楽出版社協会の4団体が、参議院議員選挙自由民主党候補の今井絵理子氏と生稲晃子氏の支持を公式に表明したことに対して、音楽文化に携わる者として強く抗議します。
音楽業界内には様々な政治的信条を持つ人間がおり、個人のレベルで支持する政党を表明することはもちろん自由です。しかし、音楽業界内において大きな影響力を有する4団体が連携して特定の候補者の支持を公に表明するという事態は極めて異例であり、音楽業界全体が当該候補者を支持するというメッセージとして社会に受け取られかねません。
また、これらの業界団体は、様々な政治的信条を持つ会員が会費を払って運営されています。したがって本来は自由投票とすべきであり、そうでないとするならば、合議の上での意見統一のプロセスを経るべきだとわれわれは考えます。今回の支持表明は、そのような透明なプロセスを経た上で行われたのでしょうか。そうでなければ中長期的には異なる考えを持つ会員の政治的信条の自由を脅かすものであり、到底許されることではありません。日本の音楽業界に多大な影響力を持ち、多くの会員・会員社を抱える団体として、これらの候補を支援する明確な理由および支援するに至った経緯を公に説明する義務があると考えます。
音楽文化には、多様性や少数者を包摂する営みの中で育まれてきた歴史的経緯があります。少数者、すなわちマイノリティには、LGBTQ+の人々や女性も含まれますが、生稲氏については「同性婚の法制化」について明確に反対をしており、両氏を擁立している自民党は「同性婚の法制化」に加え、性的指向や性自認に関する差別禁止を明記した「LGBT平等法」に反対する唯一の主要政党でもあります。議会におけるクオータ制や、選択的夫婦別姓の導入等、ジェンダー平等に関する施策についても消極的な姿勢をみせています。
さらに、自民党が推進するインボイス制度の導入により、音楽に関わる仕事で生計をたて、音楽文化の発展に寄与してきた多数のフリーランスや小規模事業者が大きな経済的ダメージを受けることが予想されています。
一個人としてではなく、団体として両氏を支持を表明することは、このような人たちの生活を脅かし多様な音楽文化を破壊することにつながると考えます。
今回の音楽業界4団体による該当候補への支持表明は、コロナ禍で大きなダメージを受けた音楽業界が政権与党である自民党との関係性を深めることにより、少しでも経済的な利益に預かろうとしたものであることは推察できます。しかし、業界に対して経済的な利益があるからといって、明確な理由や十分な説明もなく、少数者の保護に対して消極的で多様性を尊重しているとは言い難い政党とその候補者への支援を公に表明しても良いのでしょうか。あるいは、業界団体には所属していないフリーランスや小規模事業者を追い込む制度を進めようとしている政党への支持を業界の総意であるかのように公に表明しても良いのでしょうか。
われわれは到底賛同することはできません。
浅沼優子(音楽ライター)
加藤梅造(ライブハウス経営)
後藤正文(ミュージシャン)
五野井郁夫(政治学者)
篠田ミル(ミュージシャン)
スガナミユウ(ライブハウス店主/ 音楽家)
高木完(音楽家 )
Nozomi Nobody(シンガーソングライター)
東森努 (フリーランス)
Mars89 (DJ/ ミュージシャン)
Lark Chillout (DJ/ レコードバイヤー)
背景
7月10日に投票日を迎える、第26回参議院通常選挙の今井絵理子候補(全国比例候補者)と生稲晃子候補(東京都選挙区候補者)が30日、都内の自民党本部で開催された「今井絵理子、生稲晃子決起大会」に出席。
各紙の報道によると、決起大会は音楽業界4団体(一般社団法人日本音楽事業者協会、一般社団法人日本音楽制作者連盟、一般社団法人コンサートプロモーターズ協会、一般社団法人日本音楽出版社協会)が主催し、報道陣を招き、両候補の激励を行ったもので、4団体は音楽文化における2人の功績をたたえ、一丸となって両候補を支援することを決めたとのこと。
生稲氏は、「このように業界が一丸となってご支援をいただく、こういったことは初めてであるというふうにうかがいました。実は、議員の先生方もびっくりされているんです。」とコメント。
日本音楽事業者協会の瀧藤雅朝会長は「現場の声を政界に反映させていただく太いパイプ役に」と2人に期待を寄せ、決起大会の最後には全員で「勝つぞ」とコールし、拳を振り上げる様子が報道された。
2022年7月8日(金)
SaveOurSpace
【日本音楽制作者連盟との面談についてのご報告】
6月30日(木)の「音楽業界4団体が今井絵理子氏と生稲晃子氏への支援を表明した」との報道を受け、SaveOurSpaceメンバーをはじめとする有志11名で、7月2日(土)『音楽業界4団体による今井絵理子氏と生稲晃子氏の支持表明への抗議』を発出いたしました。その後多くの方々から賛同が集まり、SNS等でも抗議の声が拡がったことを受け、7月4日(月)、4団体のひとつである一般社団法人日本音楽制作者連盟(以下音制連)より面談の申し入れがありました。その後日程の調整を経て、7月6日(水)、音制連より理事長の野村達矢氏、副理事長の浅川真次氏、専務理事の金井文幸氏の3名、SaveOurSpaceより加藤梅造、篠田ミル、スガナミユウ、Nozomi Nobodyの4名が参加し、音制連事務所にて約2時間にわたり面談を行いました。
面談冒頭に、野村氏より抗議文および抗議の声に対する団体としての受け止め、コロナ禍突入以降の業界の苦境やその中で4団体が連携してロビイング等を行うようになった経緯とその成果についてが語られ、続いて今回の両氏支援表明に至った経緯と理由について説明がありました。我々に対し、今後の音楽業界のために可能な限り協力関係を築いていきたいという旨の発言もありました。
我々からは本件に関する不明点・疑問点を質問すると共に、抗議文にも記載した通り、業界内外に大きな影響力を持つ4団体が連携して特定の候補への支援を表明したこと、その過程において各団体の会員・会員社への承認を得ていなかったこと、また音楽文化にとっての重要な意義を持つ多様性と矛盾するような政策を表明している候補への支援を表明したことに対し、我々の考える問題点を指摘した上で、以下2点を要望としてお伝えいたしました。
- 4団体で今井・生稲両氏への支援表明を行うに至った詳細な経緯と明確な理由を会員および業界内外に向け公表すること
- 支援表明への抗議の声に対する団体としての受け止めを会員および業界内外に向け公表すること
面談の場において、その後の対応については「検討する」との返答があり、昨日、会員に向けて改めて説明のメールを配信する旨、公の発信を行う予定はない旨、連絡を受けました。会員宛のメールについてはその文面も受領し、公開しても構わないとの申し出がありましたので合わせて公開いたします。
なお、本面談の申し入れおよび面談内での発言については4団体の総意ではなく音制連単独のものではあるが、面談については情報を共有しているとの説明があったこと、本文書の内容と公開については音制連の承認を得たものであることの2点を申し添え、皆様へのご報告といたします。
以上
ーーー(以下、音制連から会員に宛てたメール)ーーー
音楽4団体(日本音楽事業者協会、日本音楽制作者連盟、コンサートプロモーターズ協会、日本音楽出版社協会)による参院選候補者応援決起大会への参加に関する抗議について
この度、音楽4団体による参院選候補者応援決起大会への参加につき、外部の団体を中心としてご批判・抗議をいただいております。このことにより、結果的には音楽に携わる方が分断されかねない事態となっていることに鑑み、当団体が参加するに至った理由等をご説明申し上げます。
なお、一部では当連盟が会員社に対して、これらの候補者に対して投票を強制し、または促しているかのような見解もございますが、先週のご案内でも記載いたしました通り、会員各社の社員、所属アーティストに対して今回の両候補者への投票を促すものではございません。当然ではありますが、あくまでも投票する方自身のご判断に従い投票すべきとの考えでありますことを再度表明いたしますので、この点はご理解いただきますよう、お願い申し上げます。
1.参加の理由について
これまで、4団体としては、音楽を取り巻く問題を改善すべく、さまざまな陳情等を、政治家や政党を限定することなく行って参りました。
2019年6月には、そのような陳情が効を奏し、当時大きな問題となっていたチケットの高額転売に対して、自民党の政治家を中心とする活動によりチケット不正転売禁止法が成立する運びとなりました。これにより、いくつかのチケット転売事業者を事業停止に追い込まれ、その結果としてチケットの高額転売は激減し、チケットの適正価格での流通が実現し始めています。
また、コロナ禍において、4団体は、J-LOD Live補助金によるコンサート開催支援などの緊急時の経済支援を政府与党に対して強く働きかけ、その制度の改善や対象の拡大などを共同して行って参りました。加えて、文化庁の文化芸術活動の継続支援事業では、4団体関係者以外のフリーランスのミュージシャンやDJに対しても、申請に必要な確認番号の発行をサポートするなど、幅広い支援体制の整備の充実を政府与党に働きかけてきました。
コロナ禍に直面し、4団体としては音楽を生業とする者が政府に意見を述べ、支援を要請するチャンネルが必要であることを痛感いたしました。また、団体としてのプレゼンスを高めることにより、政府に対してより大きな文化芸術活動に対する支援を引き出す必要性も痛感いたしました。
各事業者の活動・努力だけでは音楽に携わる事業者の経営、個人の生活は向上せず、新たな制度や法律の制定などには政治的な力を借りなければなりません。音楽に携わる事業者の経営、個人の生活の向上のためには、それら事業者や個人の状況を理解し、その意見を政府や世間に確実に伝えていく協力者・応援者が必要であることは言うまでもありません。これは、政界に限らず、あらゆる分野において不可欠なことと考えています。
このような経緯を踏まえ、自らもミュージシャンとして活動され、音楽業界における活動に理解のある両氏を応援することが、結果的には全ての音楽関係者の生活の向上に繋がると考え、決起大会への参加を決定した次第です。
2.決起大会への参加に至る決定プロセスについて
当連盟では、当連盟の意思決定を行う理事会によって、決起大会への参加について合意を得た上で行っております。したがって、全ての会員社に対して本件に関する個別同意は得ておりませんが、団体としての意思決定プロセスとしてはルールに沿ったものであると認識しております。
当然ではありますが、当連盟は加盟する事業者により構成されていますので、今回の決起大会参加について内部での批判が多数となれば、当然団体としての方向性も変化せざるを得ないものと考えております。
コロナ禍で大きなダメージを受けた音楽業界に対する迅速かつ実効的な救済を求めていくためには、今回の決起大会に参加することが必要であり、それが会員社及び業界の利益となるという理事会での判断でございますが、結果的に業界内に無用な政治的対立を炙り出すことになってしまったことは真摯に受け止め、今後の活動においての反省点とすべきと考えています。
3.“SAVE OUR SPACE”との面会について
なお、昨日、野村理事長、浅川副理事長、金井専務理事が、音楽4団体に対する抗議文を掲載し、署名活動を行っている団体“SAVE OUR SPACE”の構成メンバーである加藤梅造氏(ライブハウス経営)、篠田ミル氏(ミュージシャン)、スガナミユウ氏、(ライブハウス店主/音楽家)、Nozomi Nobody氏(シンガーソングライター)と面会いたしました。
面会におきましては、応援決起大会への参加に関する当連盟の立場をご説明し、“SAVE OUR SPACE”の皆様に理解を求めました。その中で、情報発信や決定プロセスにおいて、当連盟にも配慮が不足していたことについて、反省・改善すべき点は適切に対応する旨をお伝えいたしました。
その上で、未だ厳しい状況にある音楽業界に関わるすべての方々のために、可能な限り協力体制を構築したいという働きかけを行ったことについてもご報告させていただきます。
以上のとおり、当連盟としては、音楽業界全体がその生活を向上させるための一助となると判断し、応援決起大会への参加を決定した次第です。
会員社におかれましてもさまざまなお考えがあろうかと承知しておりますが、この点についてはご理解いただけますと幸いです。
最後に、あらためて今回の参議院選挙に関しては有権者の皆様それぞれが候補者を吟味し、皆様のそれぞれの判断のもとに意思表示としての投票を行なっていただきたいと願っております。
【音楽業界4団体に対する抗議文の賛同人募集に関しまして】
この度は当団体が発出した音楽業界4団体への抗議文に対し、ご賛同およびご協力をいただき誠にありがとうございました。多くの方に誠実かつ切実な思いと共にお名前を連ねていただきましたが、一部に偽名や成りすましがあることが判明しました。これら全てを精査し対応することが困難であると判断し、賛同人募集を終了すると共に、賛同人一覧を非公開にさせていただくことをご報告いたします。
音楽業界4団体による両候補の支援表明の報道後、できるだけ早く本件に対する抗議の声を可視化できればという思いで賛同人の登録フォームを公開しました。しかしながら、偽名や成りすましの可能性を想定した賛同人一覧の信頼性の担保をはかる体制を充分に構築できておりませんでした。賛同人を記載する名簿の確認が不充分だったことにより複数の方々にご迷惑をおかけし、また賛同していただいた方々の信頼を損なうような事態を招いてしまいました。
本件におきましてご迷惑をおかけいたしました皆様に対し、深くお詫びを申し上げます。
今回の呼びかけに予想を超える反響をいただき、その反響を受け昨日、日本音楽製作者連盟との面談に至りました。これにつきましては改めてご報告する予定です。多くの皆様にご賛同・ご協力いただいたことにつきまして、改めて御礼申し上げます。
2022年7月7日(木)
SaveOurSpace
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